暗黒の世界(6)


建物が轟音をたててわめき散らしている。
まるで何かに病んでいるかのように。

音と揺れにおののきながらも、私は基地の奥へと進んでいった。
奥へ行くほど廊下の明かりは弱まっていく。
まるで恐ろしい場所へと向かっているような気分だ。

廊下に沿って部屋が並んでいるが、どれも入ることができない。
天井が上から扉を押し潰していて、
それでドアが開かないのだ。

音も揺れも基地の奥からやって来ているように思えた。
奥に不気味な怪物がいて、
そいつが大声でわめき散らしながら建物全体を
揺らしているのではないだろうか。

ふと私は歩みを止めた。
前方から人の声が聞こえたような気がして。

建物の轟音にまぎれて、一瞬何かが聞こえたような気がしたのだ。
女の人の悲鳴のような声が。

私はその場に立ち尽くした。
足が前に進まない。
薄明かりに照らされた廊下の先をじっと見据える。
奥へ行くほど暗くなっていて、
最深部までは見えない状態だ。

後ろを振り返った。
来た道を戻って、オバさんと合流しようか。

でもそれでは時間を無駄にしてしまう。
手分けして別々に探さないと間に合わないだろう。

前に向き直り、もう一度耳をすませる。

オバさんがいてくれたらと思った。
オバさんなら何も恐れることなく、奥へ突き進んでいくだろう。
やるべきことをやるために、立ち止まってなどいないだろう。

私は半身になり、横歩きみたいにして前へ進んだ。
お化けが現れたらすぐ逃げられるように。

急がないといけないので、なるべく速く進むようにした。
安全を確かめながらゆっくりというワケにはいかない状況なのだ。
もし何か現れて食べられてしまったら、
それはそれで仕方がない。

どちらにしろ、鍵が見つからないと私たちは
お終いなのだ。

女の人の声がまた聞こえた。

空耳などではない。
確かに聞こえた。
しかし私は止まらずに前へ進んだ。

私は鍵を見つけたかった。

そうやって奥まで進んで行くと、ある地点で廊下が途切れていた。
その先は大きな地下工場みたいな空間が広がっていた。

私は四つんばいになり下の様子を慎重にうかがった。
かなり暗くて下がどうなっているのかわからない。
廊下が途切れた先は崖みたいに急斜面になっていて、
地面ははるか下だ。

こうして下をのぞいていると、
高いマンションの屋上にいるみたいな錯角を覚えて足がすくんだ。

よく見ると崖に沿って梯子が一本下へ伸びていた。
これを使えば下に降りられそうだ。

迷ってる暇はなかった。
今にも水の圧力が建物を押し潰してしまいそうなのだ。
壁や天井は苦痛にあえぐような悲鳴をずっと漏らしている。
死ぬ寸前の苦しみに耐えているような声がずっと続いていた。

私は梯子を使って下へ降りていった。

高さに怯えることはなかった。
暗くて下がよく見えないのが返って良かったようだ。

地面に降り立つと、そこには巨大な空間が広がっていた。
黒い金属で出来た機械が整列していて、
何かを作る工場のようだった。

機械と機械の間の道を通り、奥へと進む。
向こうにで明かりが点滅していたから。

突然ブザーの音が工場に響き渡った。
私は驚いて身を低くした。
ブザーが止むと、今度は女性の声が聞こえてきた。

「緊急事態です。すみやかに脱出してください」

女性は同じ言葉を3回繰り返した。
私は立ち上がり、前方を見据えた。
声の正体は緊急放送だったようだ。
大変な事態が発生するとこうして危機を知らせるのだろう。

声は奥の点滅する明かりの方から聞こえていた。
私は走り出した。
もうのんきに歩いている場合ではないはずだ。

奥に行くと一本廊下があった。
向こうに別の部屋があるようだ。
明かりはそこから漏れてきている。

私は慎重に廊下を歩いていった。

床は金網みたいになっていて、
その下に奈落の底が広がっているのがよく見えた。
かなりの高さだ。
落ちたら助からないだろう。

所々で、床の金網が抜け落ちている箇所があった。
足を踏みはずさなにようにゆっくりと歩いていく。

突然激しい地震が襲ってきた。
私は床に両手をついて耐えた。
そばで大きな音が起こり、
床の金網が一箇所はずれて下へ落ちていくのが見えた。

そして数秒後に金網が地面に叩きつけられる大きな音が
周囲に大音響をひびかせる。
地球が爆発したようなものすごい音だった。

「緊急事態です。すみやかに脱出してください」

ブザーと女性の声がまた聞こえてきた。
その声にせき立てられるようにして、私は立ち上がった。
穴ぼこだらけの金網の道を、奥に向かって歩いていく。

道を渡りきり隣の部屋に到着すると、
光を発していたものの正体がわかった。

それは卵だった。

卵のような楕円形をした大きな球体がチカチカ点滅している。
自動車ぐらいの大きさだった。
透明で中が透けて見える。

遠目にもそれが脱出艇であることがわかった。
座席がやレバーや電光パネルが見える。
天井に向かって斜めに伸びる発射台のようなものに、
設置された状態でそこにあった。

上を見上げても斜めに伸びる発射通路の先は見えなかった。
天井はかなり高い。
上には闇が広がるだけだ。

部屋の中にあるのは天井へ伸びてる発射通路と卵だけだ。
あとは何もない。
点滅しているのは座席の前についている電光パネルだった。

「動くんだ」

言葉が漏れた。
電気がついているということは、
この脱出艇は動くんだ。


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